「誰でも簡単!全自動パエリヤ製造機」が、輸入されはじめるらしい。
これはその名のとおり、はじめにボタンを押せば、具材の下ごしらえから、完成まですべての行程を全自動でやってくれ、しかも、外出先からもスマホで操作できる、夢のような機械だ。

パエリヤづくりの第一人者・パエリヤ大使は、この全自動パエリヤ製造機には批判的な立場をとっている。
パエリヤは、各々が苦労しながら、下ごしらえから完成まで自分でつくるのが、醍醐味であると、かれは考えている。

けれども、こうなってしまっては仕方がない。
もうこの手を使うしかない。

パエリヤ大使は、先祖代々伝わる禁断のおまじないを使い、大地に眠るいままで人間に食べられてきた、幾千万ものパエリヤの霊をよみがえらせ、全自動パエリヤ製造機の輸入を妨害しようと思いたつ。
かれはすぐに、その禁断のおまじないが書かれた初代パエリヤ大使の日記を、古い土蔵に探しに入った。
……しかし、その様子を、庭木の陰からエビ3兄弟の父・伊勢エビがギラついた眼で見ていたことに、パエリヤ大使は気がついていないのだった。


IMG_7877

少年はこの半年間、ヒマラヤじゅうをねぎまを探してまわった。
しかし、ねぎまは見つからなかった。
かれは、すっかり疲れ切ってしまっていた。
もうねぎまのことはあきらめることにした。
かれはケーブルカーで下山し、バス停でバスを待つ。
と、下校途中の女子高校生が3人、通りかかる。
そのうちの1人が超能力で少年に話しかけてくる。
『このへんのもんの苗字はたいがい〈ポピー〉なの』
見れば、目の前の店は〈ポピー商店〉。
その隣は〈ポピーベーカリー〉。
頭上にある高速道路のジャンクションは〈ポピージャンクション〉。

少年は思う。
『はじめからわかっていたさ。
ここにもねぎまはないって。
でも、信じてみたかったんだ……
そして、それが自分の生きる意味なんだと、思いたかっただけなのさ……!』

そんな少年の脳内のつぶやきを超能力で読み取った女子高校生たちは、
「かわいい」
「かわいい」
「かわいい」
と繰り返し、笑う。
少年も、笑う。


IMG_7852

数年後。
ヒマラヤのふもとの商店街のはずれにあるバーで、大人になった超能力少女が歌う……。


自転車が壊れ
テレビが壊れ
そして
あなたとの愛も壊れてしまったわ

自転車は自転車屋で
テレビは電器屋で
なおしてもらえるけれど
あなたとの愛はどうすればなおるの?

ヒマラヤにはねぎまを
富士山にはぼんじりを
私にはあなたを
あなたにはブルーポピーを


おわり