朝。
どういうわけか、いつの間にか湧きあがった不安が、胸のなかでどんどん大きくふくらんでゆく。
ぼくは気をまぎらわせるため、家を出ると、あてもなく歩きだす。


近ごろ、このあたりでよく目撃されるニホンオオカミは、中学校のはす向かいのマンションの大家で、
なにかと云うと「今日は焼肉の口だ」と云い、
なにかと云うと「おれのおじいちゃんは市議会議員だった」と自慢し、
なにかと云うと「Windows95のころはな……」と20世紀末のパソコン事情を話し、
周囲の人たちに煙たがられている。

そんなニホンオオカミは、このマンションの大家のほかに、ドライブインを3つ、中華料理屋を2つ、そして神社を4つも経営し、そのどれもが好調で、
今度、葉山のほうに2つめの別荘を買うという。

そしてかれは、今日もやっぱり焼肉の口らしく、
近所の焼肉屋(食べ放題が2時間1980円)で、肉をバクバク食べながら、新たな事業計画を練る。
「今度はアメリカから屈強なプロレスラーを10人ばかり呼びよせ天ぷらを揚げさせて、アメリカ的な屈強な天ぷらの専門店をはじめよう。ふふふ、きっとこれも儲かるぜ!」
かれの野望は尽きることがない……。


歩き疲れたぼくは、中学校のはす向かいのマンションの前で空を見上げる。
秋の空はとてもきれいだった。

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おわり