茗荷谷駅から徒歩3分のところにある大きな別荘で、近所の美食家でもあるサッカー選手は、〔漬けマグロ〕の漬けダレをつくりながら、ある夜のことを思い出している。

5年ほど前のある夜、当時、近所の美食家でもあるサッカー選手の住んでいたアパートに一通の電報が届く。
『ワタシハ ニンキモノノ ミカタデス』
ただそれだけが書かれていた。

それから、近所の美食家でもあるサッカー選手の人生は、なにもかもうまくいきはじめる。
誰も解読できなかった、サッカー界に古くから伝わるマイクロフィルムの暗号を、かれはやすやすと読み解き、そこに書かれていた予言の術をあっという間に会得する。
気高く崇高でスポーツマンシップにのっとった予言の術を。
その術を使い、不動産屋と住宅総合メーカーと手を組み、日本各地の一等地を買い占め、建売住宅や高速道路を建設、
それらにはもちろんかれ自身の名前が冠され、かれの人気度は高まる。
さらにかれは11人に分身し、サッカーチームを結成、その息のあったプレーに観客やサッカーファンは熱狂し、結成以来、毎回リーグ優勝を達成、かれの人気度はますます高まる。
さらにいま、つくっている『漬けマグロ』の漬けダレのレシピも、そのマイクロフィルムに書かれていたものだ。

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そして、
新たな計画も動きはじめている。
雪だるまやお地蔵様を人気者として、エンターテイメントの本場であるハリウッドやラスベガスに輸出しようとしている。
すでに、もうハリウッドやラスベガスの暗黒街の元締には根回し済みで、あとは契約書を交わすだけだ。
この計画が実行されれば、近所の美食家でもあるサッカー選手の名は世界にとどろき、人気者はいままでの比ではないくらい高まるだろう。
かれは考えるだけで、笑いが漏れる。
「しかし、あの電報以来だ、なにもかもうまくいきはじめたのは。
あの、天使からの電報以来……」


ぼくは恋人である君とふたりで〔やきそばの隠れ里〕へ向かう。
怒りや憎しみ、悲しみなど存在しない、誰もなにも傷つくことのない、やさしさと笑顔に満ちた理想郷である〔やきそばの隠れ里〕へ。


そのふたりの姿を、ぼくは見ている……本当のぼくが。
そして、本当のぼくは知っている。
ぼくには恋人なんかいないことを。

そのぼくを、天使は見ている。

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つづく